「・・・あっつい」


照りつける太陽の光は、部員の体力と集中力もろとも奪っていってしまう。

もちろん、も例外ではないが。



「、ドリンク」


「あ、ごめん・・・はい」



すばやく、とでもないが急いで越前にドリンクを渡す。

ゴクゴクと喉を鳴らしながら一気に飲む姿は、男らしい。というか、思わず凝視してしまう。













Love Forever













あれから後、強制的に越前のマネージャーにさせられてしまった。

ここ青春学園では、レギュラーのみ(+1名)が専属マネージャーを持つことが許されているらしい。

今現在、専属マネージャーがいるのが・・・乾と河村、桃城に越前という何とも不思議なメンバーなのだ。

乾はデータを取るのを手伝ってもらうため。河村はバーニング状態が続くとしんどいので、それを止めるため。

桃城は、彼女だからいつも傍においておきたいとか。そして越前は・・・


マネージャーの弱みを握ったため。


(ホント嫌味な性格・・・)


そうが思ってしまうのは仕方がないことだろう。

不二や手塚こそ、専属マネージャーをつけるべきなのだろうが。なぜ専属マネージャーをつけないのだろう。

そして、なぜ自分が越前のマネージャーになったかも謎なのである。

越前のファンからは色々言われ。・・・変われるなら変わってあげたい。そう思うのもしばしば。


越前から受け取った空のボトルを、見つめてため息をつく。

また練習に戻った彼のために、新しくドリンクを作らなければ。は家庭科室へ向かった。





「あら、ちゃん」

「那智先輩、こんにちは」





家庭科室の扉をあけると、すでに先客がいた。

那智先輩、というのが桃城の専属マネージャー。そして彼女。

彼女も桃城と一緒で、気さくでノリが良くて、後輩に優しい人であった。そのためなのか、とも仲が良かった。

那智は桃城のドリンクを作っていたらしく、封の開けられた袋がゴミ箱に捨ててあった。





「ちゃん今からドリンク作り?ごめんね、あたし桃の分しか作ってなくて・・・」

「いえ、那智先輩にそんなことさせるわけにはいかないので」




と言う。でも専属マネージャーは、そのためにいるのだ。

レギュラーの好みに合わせ、より活動しやすいように・・・というので設けられたものであった。

は持ってきたスポーツドリンクの粉をあけ、水を注いだ。

何日かマネージャーをしていて分かったことが、いくつかある。



越前が薄いドリンクのほうが好き、ということ。

ドリンク、タオルは手渡しじゃないと気が済まない、ということ。

マッサージは必ずさせる、ということ。

しんどいときは、汗を拭ってもらうのが当たり前、ということ。



・・・最後のほうが腑に落ちないんだけど。

どうして好きでもないのに、越前の汗を拭かなくてはいけないのだろうか。

頑張っている姿を見ているから、何とも言えないのだけれど。




ドリンクを作り終え、先ほど使ったタオルを洗濯籠に入れる。

だが、洗濯籠は山積み。しかたがなく、は洗濯機を回した。

そして、冷蔵庫から冷やしてあるタオルを取り出す。

それを見て、那智先輩がくすりと笑う。




「どうしたんですか?」

「いや、ね。わたしと桃の最初の関係に似てるな、と思って。」

「え?」

「わたしも桃にいきなりマネさせられたの。それで、何か付き合い始めたみたいな感じになって」



おかしいでしょ、と笑いながら言う先輩。でもそれはきっと、桃先輩が最初から仕組んでいたことなのだろうと思う。

----わたしが越前君のマネにさせられたのは、こき使いやすいからだ。

桃先輩のように、そういう好意があったなら別に良いけれど・・・。


(わたしが越前君と付き合うとか、絶対にあり得ない)


そう思いつつ、那智と色々話しながらテニスコートへ戻った。








本来ならばたくさんいるはずのギャラリーも、この暑さのせいか出てきていない。

夏休み、ということもあって、面倒くさいのだろうか。


(だったら最初から、追っかけなんてしなきゃいいのに)


はそういう人に、とても冷たいらしい。特に越前のファンにはとても厳しいとか。

それは越前の専属マネージャーという気持ちからなのだが・・・




ちょうど休憩に入ったのか、レギュラーが解散し始めた。

急いで越前の元へ駆け寄ろうとするが、それは背中に飛びついてきた重みによって阻止されてしまった。



「き・・・菊丸先輩・・・重いです・・・」

「ちゃーん、オチビの専属マネやめて、俺の専属マネにならない?」




出来るならば、誰の専属マネもやりたくないのだが・・・

そんなこと言える訳もなく、あはは、と苦笑いで返す。



「英二先輩、俺のマネにくっつかないで下さいッス。それともうチビじゃないっス」




ぐい、と引っ張られ、菊丸から引っぺがされた。

中等部にいたころ、彼の身長は150cm近くだったが、今は175cmくらいあるのだろう。

菊丸の身長と、同じくらいだが、なぜか未だに「オチビ」のままなのである。

行くよ、とぐいぐい引っ張られる腕。どうしたらいいのかも分からず、とりあえず菊丸先輩に会釈して、越前のなすがままに。

着いた先は、水道蛇口の傍の木陰。越前はごろん、と寝転び、その横にも座らせる。

は疲れているから汗を拭け、ということだと瞬時に理解し、冷えたタオルで越前の汗をふき取っていく。


明らかに不機嫌な越前の顔。を見つめたまま、動かない瞳。


額からふき取り始め、タオルが首と顎の付け根に到達したとき、越前にまた腕を掴まれてしまった。




「な、なに?」




不機嫌なのがひしひしと伝わってくるからだろうか。は少し動揺したようだった。




「・・・なんでさっき、英二先輩に言われたときに否定しなかった?」

「え・・・?」

「何で俺の専属マネだから、できないって断らなかった?」

「それは、だって」

「先輩だから?だから言わなかったの?」



言おうとした言葉を、越前に先に言われて正直困ってしまった。

図星だった上に、こんなに見つめながら言われてしまうと。言うべきことも言えなくなってしまったのだ。




「ねぇ、。聞いてる?」

「・・・うん。先輩には、言えないよ」

「それは英二先輩が好きってこと?」





(菊丸先輩を好き?だ、誰が!?わたし!?)

それは絶対に違う。にとって菊丸は、人間的に好きな人であり、そういう恋愛対象ではないのだ。




「ち、違うよ!第一、菊丸先輩が好きならさっき言われたときに、即返事してるでしょ!?」

「・・・ふーん」




(自分から言ってきて、ふーんって何よ!?わけ分かんない)

とが一種の怒りを覚えていると、パサリと音が聞こえた。

目の前には、半身を起こした半裸の越前。マネージャーをして、何日もこの姿を見ているけれど、決して慣れない。



「、着替えのジャージは?」

「・・・あ、これ。」




先ほど持ってきたタオルと、ドリンクと共に、必要だと思い着替えも持ってきたのだ。

マネージャー業に慣れていない割には手際がいい、と那智に褒められたのは、こういうことだったらしい。



・・・越前の上半身を見ながら、ぼーっと考えていた。

どうしてこんなに引き締まった体をしているんだろう、と。自分の柔らかい丸みを帯びた体よりも、断然いいではないか。

自分も男だったら良かったのに、と思うのは越前を見ている限り仕方がないことで。

人を魅せつけて、ぞくぞくさせるのは、越前にしかできないことなのだが。





「何、そんなに見て。ああ・・・俺に欲情した?」

「よっ・・・!ばか!そんなわけないでしょ!?」

「はいはい、欲情したわけね」

「だからちがっ・・・」





最後の抗議の言葉は、越前の唇によって塞がれてしまった。

ファーストキスもまだなに取って、それはあまりにも突然な出来事だった。

越前の唇が離れた時には、唖然としていた。




「・・・か、返せ!わたしのファーストキス!!」




にたりと不敵な笑みを浮かべる越前は、何かを企んでいるようだった。





「へーFirst kissね。いいこと聞いた。じゃ、責任とってあげるよ」





そう言ってまた唇を重ねられた。

は越前を突き飛ばし、顔を真っ赤にしながら走って逃げた。






まさか、あの出来事以来、越前を意識するよになったとは。






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