空には曇日ひとつない綺麗な青空が広がっている。

そのあるはずのない雲を眺め、ぼんやりと座り込む少女がいた。

一体ここで何をしているのだろうか。
 
 
 
…仕方がない。
 
 
 
そうでも言うように、彼女は立ち上がった。

彼女とは・・・青春学園高等部、1年8組、のことである。

は最強男と戦う覚悟を決め、男子テニスコートへ向かった。
 
 
 
 
 
 
Love Forever
 
 
 
 
 
 
 
事の始まりは、今日の中休み。

が友達と屋上でお弁当を食べ、楽しい会話に花を咲かせているときだった。

いつものように誰にも迷惑をかけず、かけられず過ごしていたのに、今日だけは違うかった。

フェンスにもたれかかり、足を投げ出し座って話をしているときにガチャリと扉が開いた。

入ってきたのは、中等部入学早々有名になった人。
 

越前リョーマだった。
 

クラスメイトが言うには、越前はクールな王子様らしい。

 
 
たしかに言われてみればそうだ。

大きな目、小さな口、シャープなラインの顎。

体格は少々小さめだが、王子様と言われれば納得する。


 
 
は越前と同じクラスになったのは、高校に入って初めてだし、女子テニス部でもないから話したことはない。

たとえ3年間、同じ学校で過ごしていても、だ。それでも、他人を引き付けるだけの魅力はある。
 


 
越前はを見たのち、しばし動きを止めた。

は何なのかわけが分からず、越前に見つめられ、自分の頬が紅潮していくのが分かった。

越前は不敵な笑みを浮かべ、に近付いていった。

 
 
耳に唇を当てられ、はびくり、と体を震わせた。
 

 
「ピンク」
 

 
そう呟いた越前の意図が分からず、は首を傾げた。

一体ピンクがどうしたのだろうか。は訳が分からないままでいた。

 
 
 
「結構いい趣味してんじゃない?オレ好み」
 

 

は一気に顔を赤くした。

まさか下着をみられていたとは、思いもしなかった。

あわててスカートを抑えるが、後の祭り。今更どうしようもない。

慌てているを横目で眺め、越前はふっ、と噴き出した。
 
 

 
「このこと黙っておいてあげるからさ、放課後男子テニス部の部室に来てよ」
 
 
 

そう言うと、越前は何事もなかったようにまた扉へと向かい始めた。

やはりわけが分からないままのは、どうすることもできずに唖然としていた。

彼が扉を閉めるまで、彼女の意識は飛んでいたらしい。

 
 
「ちょっ、越前君!」
 
 

と叫んだが、それは扉がパタンと閉まった後。

金属製の扉に跳ね返り、虚しいだけだった。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そして話しは冒頭に飛ぶのである。
 

あの後、なかなか授業に集中できずにただ漠然と過ごしていた。

注意を何度も受け、それでも直らないことに心配をしたのか、保健室へ行くように言われたのである。

このままでは迷惑をかけるのみだと思い、保健室に行き寝ようとしたのだが、なかなか落ち着いて寝られなく。

そのまま放課後になってしまったのだ。放課後と言えば、越前との約束。というか一方的に言われたのだが。

下着の色を言われてしまうと大変困る。学年、いや学校の笑いものである。
 
 
 

「よし、絶対勝つ!」
 

 
 
そう意気込んで言う彼女の「勝つ」という論点は、少しズレているが・・・。
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
・・・・・・テニス部まで来たけど、何なの・・・このファンの数。

は唖然とした。キャーキャー騒ぐ女子が、コートの周りを埋め尽くしていたのだ。

部室って言ったって・・・
 
「入っていいの、これ・・・」
 
ただ立ち尽くすばかりであった。
 
 
 
 
「ねぇ、入んの?」
 

ふと聞こえた声に、眩暈がしそうになる。を呼んだ張本人、越前が立っていた。

校舎内でとは違い、青のジャージがよく似合っていた。
 

---入んの、ってあんたが呼んだんじゃないの。
 

むかむかとする気持ちを抑えて、は「何?」と呟いた。
 
 

「まあここに来たってことは、相当言われたくないんだね。入れば?」
 

 
そりゃ誰でも下着の色を言われたくないだろう、という抗議の言葉を飲み込み、部室へ入った。

何の用、とも言うべき沙依はイライラしながら越前の様子を見ていた。

すると越前は、おもむろにジャージを脱ぎ始めたのである。
 

「ちょっ・・・着替えるなら言ってよ!」
 

と急いで部室を出ようとすれば、越前にがし、と腕を掴まれてしまった。

近くで見る、越前の上半身。中学のときは小さかったのに、今はかなり身長が伸びて。体はしっかりとした筋肉質で。

自分のやわらかい肌と比べると、やはり男なのだと実感してしまう。
 
 

「何?照れてんの?ていうか、慣れてもらわないと困るんだけど」

 
「え…?わたし関係ないし・・・」

 
「あるんだよね。それが」
 

 
ニヤ、と不敵に笑う越前を見ると、思わず背筋が強張る。

本能が逃げろ、と伝えている。しかし、は越前に腕を掴まれ、逃げられる状態ではなかった。
 
 
 
 

 
「マネージャーになってよ。オレ専属の。じゃないと・・・バラすよ?」

 
 
「・・・っはぁ!?」
 
 
 
 
 
部活に入っていない沙依にとって、それは出来なくはないが・・・。

 

---何でわたしがマネージャー?しかも越前君の専属?


 
一体なにをどう考えてこういうものを思いついたのだろう、と疑問に思う。会ったのは今日始めて。きっかけは下着を見られたこと。

こんなの、どう言ったって理不尽だ。しかも、越前はの弱みを握っている。明らかにおかしい。

いやだ、と答える前に「バラして欲しいならまた別だけど」と付け加えられ、阻止されてしまった。
 
 

 
どうやらは、必ずYesと答えなければいけないらしい

 
 
 
「・・・分かった」
 
 

 
重い、重い気持ちを抑えて、は仕方なく返事をした。

越前は「はいこれ、」と言い、1枚の紙とペンを沙依に渡した。
 


 
---青春学園高等部 男子テニス部 レギュラー専属マネージャー
 


 
 
はゆっくりと、ペンを走らせた。
 






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