こんな夜にただ一人で家にこもって、 窓を開け放して、 窓の淵に座って、携帯を握り締めながら、月を眺めるなんて きっとそんなのあたしだけ。 でも、それがいい。 こんな静かな夜は、この静かさに流れを任せて、ただ感傷に浸ればいいだけの話。 月夜*前編 ”冷静沈着” そう言われているけれども、実際はそんなことなかった。 本当はすぐ泣く泣き虫。それでもって感動屋。 すぐに騙されて、挙句の果てには自分が損をする。 そう、典型的な「騙されやすい人」それが元々のあたし。 いつも笑っていた。…男という存在を真剣に考えたことがなかったから。 楽だった。恋をしなかったら、嫉妬という醜い感情もなかった。 人を好きになるということは、きっとあたしが考えるより、 もっともっと大変なことで。 皆、好きになってもらえるように、「可愛い」って言ってもらえるように、 きっと一生懸命になっていた。多分、あたしも一生懸命だった。 いや、本当は、今が一番一生懸命。 本気で好きになったのは、紛れもなく遠い存在だった。 よく耳にする会話。 「って、結構かっこよくない?」 「何、今更」 「あたし本気で好きになっちゃいそう!」 「ライバル多いよ。学年に山ほど。ちなみにあたしも!」 「何それー!!」 高校に入ると皆、たくさんの知り合いができて、 の噂は瞬く間に広がった。もちろん、顔の特徴から身長、経歴まで。 そりゃ、あたしだっていっぱい聞かされたよ。今みたいに。 あたしはそんなに興味がなかった。の見かけは。 確かにかっこいいけど。言うとこなしだけど。 でも、あたしは、の優しさがすごく嬉しかった。 一緒にしゃべっていると、 心の重みがすーっと抜けていくみたいに軽くなれた。 本当に、今は仲のいい"友達"ではあるんだ。 皆がの話をするのが嫌で、嫌で、いつもその話題は避けた。 するとやっぱりあたしには「冷静沈着」という言葉がついて回る。 「男」の話をすることが楽しいのか、「」の話をすることが楽しいのか。 あたしには分からない。その楽しさがどちらなのか。 好きという感情は、自分だけが持っていればいいもの。 他人と共有する必要なんか全くもっていらないし、共有したくもない。 (芸能人とか歌手とかは別にしてね、) 「は〜……なんだかなぁ」 好きという気持ちは、友達だからと言って明け晴らすべきなのだろうか。 秘密を持たないことが友達なのか。すべて共有することが友達なのか。 私のに対する感情は、こんなところまであたしを悩ませた。 「ねぇ、お月様?どう思う?」 そう聞いてみても、お月様が返事してくれるわけではない。 返事をしてくれない相手だからこそ、話しかけている。 (だって今は一人で居たいんだもん) 家に居たって、耳にこびりついている周囲の声がすごく嫌だ。 のことを語る声が。 と話すキャピキャピとした声が。 媚びるような猫なで声が。 ただの嫉妬ってことぐらい、自分でも分かってるよ。 不器用すぎるほど不器用な自分を、 ここまで恨めしく思ったのは初めてだった。 -------------!! この静かな夜にはびっくりするくらいの、 けたたましい私の着信音がからの電話を告げる。 「はい、どしたの?」 「今、何してる?」 「窓んとこ座って、月見てる。(のことを考えながら) は?(きっと何も考えずにゲーム終えたところでしょう?)」 「俺も一緒。月見てるよ。」 「(同じことしてるのか。なんか嬉しいな。)今日は月が高いね」 「ん、そだな」 このたわいもない話の中に、一体どれだけの言葉を詰めれば あたしの気持ちを正直に伝えられることができるのだろう。 「そんでさー、啓のやつがさ」 このたわいもない話の中に、一体どれくらい あなたの気持ちは入っているの? 「したらさ、」 このたわいもない話の中に、一体どれくらいの涙を 隠しながら流したのだろうか。 「っ……ごめん、切るわ」 自問しているうちに、堪えられなくなってしまった。 胸に押し迫る自分の弱さと、への愛おしさに。 そしてまたあたしは、月を眺める。 今度は涙を流しながら。 NEXT→ |