「どうぞ、あがって」 「お邪魔しまーす・・・」 そろそろと、あたしは家に足を踏み入れた。 fall in love -16th- 「ちょっと・・・つーかかなり汚いけど、まあ適当に座ってて」 「りょーかい」 「あ、ココアでいい?」 「うん、ありがと」 パタン、とくんが扉を閉める。 くんの部屋は、かなりキレイ。シンプルっていうか、必要なもの以外ないってか。 ぐちゃぐちゃした、あたしの部屋とは大違い。 ふぅ、とため息をついて今日のことを思い返す。 朝、約束の時間に遅刻しそうになった。 あたりまえのように、寝坊なんかじゃないよ。楽しみにしてたんだから、さ。 服、気に入ってもらえるようにしたとかさ。髪の毛、ちゃんとブローしたしさ。 メイクだって、いつもとちょっと変えたしさ。 デートなんかじゃない、って分かっていても、やっぱり楽しみなんだよ。 待ち合わせ場所について、どこにくんがいるか分かんなかった。 今日は土曜日。人が多くて当然。携帯でくんと連絡取りながら歩いてたら、くん目の前にいたし。 ちょっと走ったから、せっかく頑張った髪もバサバサだし。 「かわいいじゃん」 くんと会って、第一声がこれ。 赤面、どころか耳まで真っ赤になっちゃって。くんに笑われた。 カチャリ、と扉が開いた。 あたしの前の机にマグカップを2つおいて、慣れた手つきで音楽をかける。 かけられた音楽は、あたしの大好きな曲で。 「Def Techだー」 「おーさんも好きなんだ?俺、一番好きなの」 「あたしもすごい好きだよ。でも金欠だから、そんなに持ってないんだよなぁ」 「俺、全部買ったし 笑 しゃーねーなー、全部貸してやるよ」 何であたし、くんと普通にしゃべってるんだろう。 何であたし、くんと仲良くなれたんだろう。 何であたしは、彼女になれないんだろう。 「・・・さん?さん?」 「え?」 「や、なんかちょっとぼーっとしてたから」 「ってかさ、くん」 「」 「え?」 「でいい」 少しずつで良いから、もっと近づきたいな。 「うん、あたしもでいいから」 「」 「何?」 「呼んでみただけ 笑」 はにかみながら笑うあたしたちは、傍から見ればカップルなのかな? 好きだよ、と溢れそうになる想いを止めるのは、苦しくて切なくて。 でも言葉に表そうとすると、かき消されてしまって。 これが恋だったんだね。 「・・・」 「何?また呼んでみただけ、とかやめ・・・」 ふわり、という表現が一番正しいかもしれない。 あたしは、に抱きしめられた。 何で抱きしめられているのかも、何でがこんなに切ない声であたしを呼んだのかも 全然分からなかったの。 「好きになっちゃった、のこと」 NEXT→