あたしの気持ちは、絶対に分かってもらえないんだ。

こんな気持ちがあるから、今あたしはこんなに苦しいんだ。

リョーマのことなんか嫌いになりたい。


……竜崎さんが、大嫌い。

 

 
怪我は愛への証




あたしはリョーマと付き合っている。だけど、殆どの人はそんなこと知らない。

桃先輩とは私も仲が良くて、知っているけど、多分他は私の親友しか知らない・

リョーマとはあんまり一緒にいることがないから…。

部活が遅くなるから先に帰れって言われるし、クラスも別だし……。

だから、あたしの学年の殆どの人は、リョーマが桜乃ちゃんと付き合っている、もしくは両思いだと思っている。

竜崎さんは、リョーマが試合の時、いつもリョーマの傍にいる。

あたしが試合を見に行くって言えば「来なくていい。」と一言だけで拒否されるのに。

どうして、彼女のあたしが応援に行っちゃいけなくて、竜崎さんはいいのよ。

最近のあたしは、竜崎さんに嫉妬ばかりしていた。


極めつけはこの前の大会。

に「こっそり見にいけば、ばれないって!」と言われて、こっそり見に行った大会。

リョーマがラケットで目の上を切ってしまった時、あたしは一番にでも駆け寄って行きたかった。

でもあたしはコートに入ることが出来ないから、その場でただ行方を見守って行くしかなかった。

なのに、リョーマとの距離と竜崎さんとの距離はとても近く、私とリョーマの距離は幾分遠かった。

近くによって、手当てだってしたいのに。リョーマが怪我をよくするから、応急処置の方法だって、テーピングだって覚えたのに。

でも、あたしは何もできない。何もさせてもらえない。彼女というのは言葉だけ?

でも、竜崎さんはおばあさんが顧問という立場だからか、いつもやたらとくっついている。

この前はコーチをしてもらったのだの、助けてもらっただの。あたしは直接そんなこと聞きたくないのよ!



「ねぇ。あたしさ、本当にリョーマの彼女なのかな…」

「…」

「今もさ、リョーマ。絶対痛いのに。あたし、何もできなくて。こんなにも距離が遠いんだよ…」

「…大丈夫なんじゃない?心配しなくても。」



の言葉でさえもあんまり耳に入らなくて、

あたしはただただ、リョーマを見つめることしかできなかったのを覚えている。




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試合が終わり家に帰った後、桃先輩から連絡が入った。

「おー。越前の目は大丈夫だったぜ。」

「そうだったんですか…。良かったです。ありがとうございます…。」

その時のわたしの声はもうほぼ泣き声で、震えていたんだと思う。

良かったなどという安堵感の余韻もなく、すぐに桃先輩は話し出した。


「んで、かわむらすしって場所分かるか?」


かわむらすしは一度だけ親に連れて行ってもらったことがあって、道は覚えていた。


「あ、はい。分かります。」

「じゃあ話ははえーな。すぐに来てくれよ。頼んだ!」

「え、ちょ、桃せんぱ………」


ツー、ツー、ツーと電話が途切れた。私は意味も分からないまま、そこへ向かうのだろうか。

いや、でもすぐにこの目でリョーマの無事を確認したいよ。




すぐにバスに乗って向かうは、先輩に指定されたかわむらすし。

かわむらすしに着くとわいわいと声が聞こえてきたものだから、あたしは入るのを躊躇してしまった。

でも、先輩がここに来いって言ったから、ここでいいんだよね。間違っていたら、先輩に文句言ってやる。

私はとても強気でかわむらすしの扉を開けた。


扉を開けた瞬間、いくつもの目が私を見ていた。

そのなかには、あたしが心配して心配して仕方なかった張本人もいて。


「どうしたの、。」


会えば早々にそんなことを言われたものだから、あたしは思わず堪えていた涙が溢れてきた。

どうしたのって、何よ。どうしたのって、何よ!!


「どうしたのじゃないよ!心配したじゃないの!!なんで、怪我なんかするのよ!」


あたしは周りにテニス部の先輩がいることも忘れて、ずかずかと入っていきリョーマの胸をバシバシと叩きながら泣いた。

こんなところで、なんて一瞬頭によぎるけど、もうそんなことどうでもいい。


「ごめん。 、本当にごめん。」


ぎゅっと抱きしめられたリョーマの腕は温かくて、何もかも許してしまった。


「ばか。本当にばか。次怪我したら、許さないから」

「分かった…。アンタ、本当に可愛いね」



(ヒューヒュー!お前らラブラブだなぁ!)
(これはいいデータが取れそうだ)
(くそーオチビのくせに!!)
(ふふ、越前もなかなかのモテ男だね)
(グラウンド50周だ!!)