重い重い重い重い。

40人分のノート2冊ずつ。計80冊。

何であたし一人で運ばなくちゃいけないんだ!しかも4階まで!





20 「今なら付き合ってやるサービス付き。」ー!おーい!」


担任に呼ばれ振り向く。振り向いたら担任がにこにこした顔で立っていた。

普段よく怒る担任がにこにこしていたら気持ちが悪い。


「なんですか、谷口先生。」


一人で歩いていたのが悪かった。一人で歩いていなかったら、多分声をかけられなかったはず。

いや、確信は全くないけれど…。


「あのなぁー、本当に悪いが、新しい教科書、運んでくれないか?」


ああ、そうですか。担任がにこにこ笑っていた理由が分かった。

自分で運ぶのが面倒くさいですか。それで生徒使うんですね。


「先生まだ、仕事残っててなぁ!授業の準備をしなくちゃいけないんだ!」


はっはっはーっと笑う担任。なぜそこで笑う必要があるんですか。

用事頼まれたあたしは全く笑えないです。

でも、これは断れないんだよなぁ…。男友達なら断れるんだけどなぁ…


「分かりました。運べばいいんですね、運べば。」


担任に悪態をつきながら言う。この担任は敬語を嫌う。私も敬語を嫌う。

まぁちょうどいい感覚なのだ。


「じゃあこれを頼むな!」


と連れて行かれた部屋には山積みの教科書。到底一回では運べない。

この資料室は一階。あたしたちの学年は四階。

・・・だめ、、くらくらしてきた。


でも、引き受けてしまったものはもう断れない。

今更やっぱり無理です、なんてことはあたしには絶対言えない。


「はぁー……面倒くさ……………」


全部の教科書の4分の1くらいを持って運び出したのはいいが、たとえ4分の1だろうが重いもんは重い。

なんたって1冊が分厚いんですもの!ああ、だから嫌なのね。高校の教科書は。



「ああー重いー重いー重いー」



「お前あやしいぞ」



!!?




誰!?後ろから聞こえた声に体ごと反転するのはしんどいので、顔を回そうとしたものの、教科書が邪魔で回らなかった。


「あんた誰よ」


そんなん言うなら手伝え!と少々いらいらしてしまったあたしは思い切り悪態をついた。

でもよくよく考えてみると、それはあたしのよく知ってる声で


「おーおーおー。彼氏のくんによくそんなことが言えるねぇ」


そう、だった。とは腐れ縁っていうかなんていうか。


「誰が彼氏だって!!?」

「ん?俺」

「ちゃうわボケェ!」

「うわ、相変わらず口悪いなぁ」



っていうか手伝えよ。見てんだったら。あたしがこんなに苦戦してんのに!

なんであんたはへらへら笑って横を歩いてんだよ!



「ね、こんな重いもの持ってる女の子見て、手伝ってあげようとか思わないの?」

「んーだって頼まれてないし。」


・・・普通頼まなくても気ぐらいは使ってくれるでしょうよ。

ま、こいつは気回らないだろうなぁ。




「まだまだ荷物あんの。先生に頼まれたやつ。それ、手伝ってくれない?」

「ああ、そんくらい別にいいよ。」



!!

ごめんなさい。私今まであなたのこと深く誤解してました。

謝りますから早く手伝ってください。



「あ、ほんでさぁ・・・」


まだ何かあるというの!あたしはこんなに重い思いをしてあなたを待っているというのに!

(変な意味に捉えないでね)

あたしの腕は悲鳴をあげているというのに。汗という涙を流しているのに。



「今なら付き合ってやるサービス付き。」


「はい?」


「だから、今なら付き合ってやるサービス付きだって。」


「誰と誰が?」


「俺とお前が。」


「何で」


「好きだから?」


「誰が誰を?」


「俺がお前を。」



・・・・・・・・・・・・・・・・・。

何だかの言いたいことが分かってきた。



「素直に付き合ってって言えばいいのに」



くすくすと笑いながらの先を歩いた。


「いーよ!付き合っても!そのかわり、少しは素直になりなよね!」


でも一番素直にならなくちゃいけないのは、あたし自身だったりして!


*END