溢れるほどの愛を飲み干せば、それは一体どこへ行くというのだろう。

いつまでたっても分からないその疑問は、いつでまでもあたしを悩ませた。

溢れるほどの思いを心に留めておけば、その捌け口はどこに見出せるのだろう。

いつまでもこのままじゃいけないと分かっているのに、それなのにあとほんの少しの勇気がない。

あたしに、あとほんの少しの勇気があれば。




葛藤が生み出すものは愛だった




「もーなに言ってんの!くん!」

聞きたくもないのにこの耳は、嫌でもという単語を拾ってしまう。


「いやいや、それがマジなんだって!」

聞きたくもないのにこの耳は、嫌でもの声を拾ってしまう。


このざわめきの中で、どうしてもの声だけを拾おうとする耳を塞ぎたくなった。

あたしがどれだけ気にしても、どれだけ意識してもの目にあたしの姿は写らないというのに。

その事実があたしの中で葛藤を生み、そして色彩に失敗したどす黒い色のようにもう訳が分からなくなっていた。


いつも、いつもそうだった。

あたしの中で確実に、着実にの存在は大きくなっていき、一体これがどういうものなのかが自分で理解できなかった。

一概に言ってみれば、それは恋とか愛だとかそういうものなのかも知れない。

でもそういう簡単な言葉で片付けたくなかったというのも本音だし、やはり一番は自分でもよく分からなかったのだと思う。



一体どうしてあたしはのことを考えてしまうのだろう。こんなにも苦しいのに、いつもいつも考えてしまう自分が憎い。



どうしたらあたしの気持ちに整理がつくのだろうか。

嫌いなれたらきっときっととても楽になるんだろう。もう何も考えずに、ただ毎日の生活を楽しめるのだろう。


なのに、の声がそうさせてくれない。


これは私の被害妄想に過ぎない。そんなことは分かっていた。だけど、本当にそうだった。

どこにいたって私の耳はの声を探している。そして気が付けば私の目をもが、を探している。

気が付けば常にを探している。


正直、怖かった。これだけ好きになってしまった私は一体どうなるのだろうかと。

もしかしたら私はおかしいのではないかと。何をしているんだと、自嘲してしまう。




「な、!」

急に話しかけられた声にびくり、と少し大げさに反応してしまった。

「え…何…?」

話しかけられたことが嬉しいのに、この気持ちに気付いて欲しいくせに、気付いて欲しくなくて。

あたしは矛盾しすぎている。矛盾しすぎていて、あたしですら分からなくなっていた。


「俺、この間の現代文の授業遅刻して休んじゃってさ!そろそろ提出じゃんか。ノート、貸してくんね?」

「あ、あ、…うん」


はい、なんて対して綺麗な字でもなく、まとめるのも上手くないあたしのノートを差し出した。

何故あたしなのかが分からないけれど、話しかけてくれたことと、役に立ててるんだなんていう変な感情で嬉しくなっていた。

ただこんな何ともない会話、いつも通りの教室の風景なのに、ただそこに違うものがあったのはあたしの感情だった。


「おー!って字綺麗のな!俺授業どうしても寝ちゃうんだよなー…また貸してもらおうかなー」


ちょっとちょっと。授業は起きておきましょうよ、なんて笑ってしまった。

そういうところが、何だか本当にらしくて。

ああ、やっぱり好きなんだと初めて冷静に自分の気持ちを自覚した。

ただ、それをどうやって表現すればいいのかもただ分からなくて。


「あのさ、」

「ん?」

「お前さ、好きな奴…いるのか?」


意味が分からない。あたしはが好きだというのに。

ここでに好きだと言えたらどんなに楽なんだろう。



「俺は、のこと好きだけどな」



聞きなれなかった単語と衝撃の一言に、私の思考回路は一時停止したみたいだった。

あれだけ必死に諦めようとしてた私は一体何だったのだろう。

何百年もの間どこかで彷徨ったもののように、長い間思いつめたような気持ちだった。

苦しかったけれど、それを抜けた時はすごい嬉しさと涼しさと言い知れぬ興奮と。


あたしは一人で思い切り笑った。






(お前何なんだよ!いきなり笑うとかびっくりするじゃんか!)
(いやいや、ごめんて!何か嬉しいのか分かんなくて)
(え、俺のこと嫌いなのか?)
(うん、)
(………)
(んな訳ないじゃんか、ばーか!)
(んだよ…)
(大好きだよ、