ただの憧れ。そんなの分かっていた。否、分かっていたつもりだった。

一瞬にして、あたしの心は奪われた。

あたしには、先輩以外考えられない。ただ、眺めているだけで幸せだった。
















俗に言う「一目惚れ」というものをしてしまったと言われているが、あたし自身はそんなこと思っていない。

憧れ。そう、誰にだって一度はある、誰かへの憧れ。

一段と足が速くて、笑っているときの笑顔が好きで、みんなに囲まれて楽しそうにしているのが羨ましいと思った。

彼女になりたい、キスをしたい、だのは下らないことだと思うあたしは、恋愛などに興味はなかった。

話しをしたいと思うのは憧れているから、当たり前のことであって。

そう言うあたしの話しを聞いて「あたしの先輩なのに」と言う人は、本当に頭が悪いのだと思う。



出会いはありきたり。同じ部活の先輩を見て、すごいと憧れた。

誰かにも妬まれることもなく、中心人物となって動く先輩は、本当に羨ましかった。

いつの間にかあたしは先輩を目で追うようになって、見ているだけの憧れの人となってしまった。

もちろん話しかけることなんかできずに、周りの人みたいにギャーギャー騒げなくて。

本気で憧れているからこそ、言動全てがすばらしく思えて。あんな人になりたいと思うんだ。




「そんなに見てたら、先輩に穴が開いちゃうんじゃない?」

くるりと後ろを振り返れば、友達のがいた。ほど、あたしのことを理解してくれる人はいないと思う。

先輩に気づかれちゃってもいいの?、と夕日を浴びながら問いかけるはすごく綺麗。大変な友達を持ったものだと思う。

「穴なんか開かないってば」

笑いながら答えるあたしに、笑って答える。えへへ、とやる気のない笑い方をするのはいつものこと。

2人で窓枠に肘をかけ、また先輩を眺め始めた。

「やっぱりかっこいいよね」

ポツリと呟いたに、うんうんと頷くあたし。傍から見れば、とても怪しいのかもしれない。

幸いながら今は放課後。誰も教室には居ない。

部活は好き。だけど、部活に行ったらこんなにも先輩を見ることはできないから。まだ行かない。

もおそらくそれが分かっているのだろう。いちいち聞こうとはしない。

こうやって眺めているだけでも、幸せだ、と感じてしまうあたしは重症なのかもしれない。

先輩は、きっとあたしのこと知らない。だから余計に話しかけられない。

部活でも特に目立っていないし、人数も多いし、部員にいたような・・・くらいにしか思っていないんだろうな、と思うと結構辛い。




先輩を眺めながら、ぼーっと考えてみる。

瞬間、先輩が振り返って、あたし達のいる教室のほうを向いた。

あたしがオドオドしていると、バッチリと目が合ってしまって



「----!そんなとこで何してんだよ!早く部活に来ーい!」




叫ばれた名前、あたしに向けられた視線、あたしに向けられた笑顔、すべてが嬉しくて。

この胸のドキドキは、治まる兆しもない。

隣のとお互いに顔を見合わせて驚いていると、ふっ、とが微笑んだ。




「早く行きなよ」




先輩は名前知ってたね、とだけ言って、あたしの背を ぽん、と押した。

あたしは嬉しくて嬉しくて、下に居る先輩に向かって叫んだ。





「すぐ行きます!」





先輩の視線が、笑顔が、声が、あたしに向けられたとき、


あたしは恋に落ちました。


先輩が「憧れの人」から「好きな人」に変わった瞬間。




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love sickという素敵な企画に参加させていただきました。
tippi様お借りしたお題の10番目です。