一目惚れなんて、ありえないと思ってた。

本当の恋に発展するはずなんて、ありえないと思ってた。

けれど、確実にこの気持ちは愛で、あたしは確実にに恋してて。


私がつらくなる事実を知ったとしても、それでもに会いたくて。




fall in love -28th-




たくさん走って走って、人通りの多い道の傍らで立ち止まった。

携帯を左手に持って、右手で滲んだ世界を澄んだ世界に戻した。



無機質な画面の中には笑いあって、ピースをしているあたしと。

「親友」と描かれた文字の下に、笑いあうあたしと。

この時に戻れたらいいのに。何も知らないでただ馬鹿みたいに笑ってた時が、一番幸せだったのかもしれない。

その時は、自分には何も幸せがないと思っていたけれど、今考えれば、あの時が一番幸せだったのかもしれない。

よくよく考えてみれば、が秘密にしてたことは、あたしを守るためでもあったんだと思った。

あたしを傷つけまいと、必死に頑張っていてくれた。

だけど、これはもう自分の判断で動くしかないんだ。だれかが決めてくれるわけでも、終止符を打ってくれるわけでもない。

あたし自身が自分で決めて、決断し、終えなければいけない問題なんだ。



今までの、何も知らないあたしでいれば良かったと思った。

何も知らずにへらへら笑って、嬉しくなっていたあの頃に戻れたらと思った。

でも、現実には時を戻すなんてそんなことはできないから。

だからあたしは、ただただ、前を見て、現実を見て、結論を出さなければいけないんだ。




「!」

走って追いかけてきた。あたしはふいに立ち止まった。


前は、そんなちょっとのことでときめいたのかもしれないけど、今は辛いだけだよ。

もう必要ないんだよ。今みたいに、あたしが追いかけられることも、が追いかけることも。


「ねぇ!もう、会わないでおこう。あたしも、もうとは会えない」


これ以上傷つくのは嫌だ。これ以上苦しむのは嫌だ。

昔のあたしに戻ってしまえば、もう関係はなんにもなくなる。

それでいいんだ。そう、それがいいんだ。

と一緒に馬鹿騒ぎして、痴話喧嘩してる生活に戻ろう。

平凡だったあの日常に戻ろう。もう何も求めない、もう何も必要としない。


「…ごめん。でも俺は、引き下がれない」


どうしてよ。あたしのことも本気じゃなくて、また傷つく思いをするんでしょう。

だったらこれ以上傷つく前に、もう二度と会わなければ何も問題はないのよ。


「そんなの信用できないよ!!」


お願い、お願い。早く解放してよ、この胸の苦しみから。

もう、耐えることなんてできそうにないのよ、この心は。


ふいにあたしの腕はに掴まれ、抱き寄せられた。



「ほんとに、ごめん。でも俺は、一緒に居て欲しい」



もう、何も言えなくなった。

簡単に嫌いになれるわけがない。簡単に忘れられるわけがない。

ずっと恋焦がれた。ずっと求めていた。その心を、簡単に捨てられるわけがない。


「俺、初めて付き合った彼女と同じことしてた。

 俺も、その時すごく傷ついた。なのに、なんでそのこと忘れてたんだろう」


彼の腕の力がどんどん強くなる。

彼の背に手を回したい。本当は傍に居たいのに。

苦しい。傍にいたら、また同じことがあるんじゃないかと不安になる。

でも、やっぱりあたしはが好きだ。




少し躊躇して、あたしは彼の背に手を回した。




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