どうしてこんなことになったのか、あたしには見当がつかなかった。

どうして、あたしがこんな思いをしなくちゃいけないのかも分からなかった。

別に悪いこと、嫌がることをした記憶もなかった。

なのに、なんでこんな思いをあたしがしなくちゃいけないのよ。





可愛い後輩







どうして彼氏が、私の知らない女の子とキスをしていたのかなんて、考えれば簡単な話で。

イコールそれは、二股をかけられていたということで。

そんなこと、すぐに分かったけど、だけどこの頭はなかなか理解をしてくれなくて。



一緒に帰る約束をしていた。

ただ一緒に帰って、家まで送ってくれるって言ってたから、教室まで来てくれるって言ってたから待ってたのに。

ホームルームが終わる時間になっても、なかなか来ない彼を探しに行ったのがいけなかったのか。


まさかこんなところに居る訳がないと思いながら、足を踏み入れた図書室。

そこで見た衝撃。耳に入ってきた、あたしの心を刺す言葉たち。




「ねぇ、彼女待たせてるんじゃないの?」

「ああ、いいいんだよ。たいした付き合いもしてねぇし、なんかカタイしさ」


「もう、飽きたしな」




彼女の腰に手をまわし、それに答えるように彼の首に回された手。

そして、キス。






急いで逃げた。まさか、と思ったけれどそれは確実に彼の後姿で、彼の声だった。


あはは、馬鹿、だなぁ、あたし。


相手から告白して、いつの間にかあたしのほうが好きになってて。

それで、浮気なんかされて。飽きた、なんて言われて。




なのに涙が止まらないなんて。





あたしはいつの間にか教室に戻っていた。

机に突っ伏して、泣いていた。

途端、ガラガラと教室の扉が音を立てた。


入ってきたのは、確実に今あたしを傷つけたそいつで。

あたしの心をズタズタにした、そいつで。

心もないような、最低なそいつで。



「わりぃな、待たせて。どしたん、泣いてんのか?」



なんで、なんで、そんな普通な顔をして、あたしに話しかけられるのよ。

なんで、なんで、そんな普通な顔をして、あたしを心配できるのよ。

なんで、なんで、そんな普通な顔をして、あたしの髪を撫でようとするのよ。




「触らないで!」




あたしは伸ばしてきた手を、思い切り払いのけた。

そいつのは、まるで豆鉄砲を食ったような顔をしていて。





「どした??」




どした、なんかじゃない。全部全部あんたがあたしを苦しめたんじゃないの。

あたしの名前なんか呼ばないで。その偽りの優しい顔を見せないで。

その汚い感情を持ったまま、私に触ろうとしないで。





「早く帰ってよ!さっきの女の子と一緒に帰ればいいじゃない!」





やはりまた、そいつは驚いた顔をしていて。

まさかばれないとでも思っていたのか。あたしが単純すぎるから、いい気になっていただけなのか。

もう、あたしにはこいつの心を理解するなんて到底無理な話だけど。





「お前……さっき…いたのか?」





いたから、何?

あの場にあたしがいなかったら、あんなことしていいんだ?

あんなこと言ってもいいんだ?あたし、こんな人と付き合ってたの?




「お願い、別れて」




悲しさや、苦しさよりも、怒りのほうが大きかったのは、間違いない。

それよりも、自分がこんなやつと付き合ってたということが、本当に情けなくて。




「ああ、分かったよ。案外、お前よく持ったな。じゃな」




そういいながら、教室を出て行ったあいつ。

あたしは無言でそいつを見送った。








あれから何時間経ったのかな。

もう軽く二時間とか越えてそうだよね。そろそろ帰んなきゃ。

ああ、でも駄目だ。涙が止まらないよ。


涙で歪んで見える黒板や、机。

見慣れたはずのその景色も、ぐちゃぐちゃでどこか全然分からないよ。


シン、と静まり返った部屋に、ガラガラと再びドアを開く音。



「先輩?」



もう、誰よ。一人にさせてよ。

あたしの心は、今全然穏やかじゃないの。



「俺です。です。」



あ、くんか。

くんはあたしと同じ中学校で、あたしがマネージャーしてた時の後輩。

よくあたしに話しかけてくれて、よくマネージャー業も手伝ってくれたりして。




「…ずっといたの?」

「すいません…。」

「…そっか。あたしさ、振られたみたい。それも、最悪の形でさ。」



そうですか、と言って黙るくん。

そうやって沈黙されるのも、結構堪えるよ。



「こんな時に卑怯かも知れないんですけど、俺、先輩のこと、先輩がマネやってくれてた時から好きです。」



全然気が付かなかった。くんの視線に気付いたこともなかった。

ただ、部員の後輩の中では一番仲がよかったかもしれない、くらいにしか思ってなくって。

ただただ、今は真剣に頬を少し赤らめながら言うは可愛くて仕方なくて。



「あたしまだしばらく、あいつのこと好きだと思うよ…」


「俺、先輩のこと好きにさせる自信あるんで」



なんでこの後輩は、こんなにあたしの心を簡単にときめかせるのかな。

年下に、思えないよ。



「傷つけるかもしんないよ」



ああ、また涙腺が緩んできたよ。

こんなことがあった直後でも、あたしを好きでいてくれてるなんて。



「傷ついても好きだから、別にいいっすよ」



いつのまにかあたしはボロボロ泣いていて、あたしが求めていたのはこの心だったのかもしれない。

一途に自分だけを思ってくれる心。一途に自分を愛してくれる人。

一途に自分をしっかりと見ていてくれる人。

気が付けば、あたしはくんに抱きしめられていた。




悲しみの後には、甘い甘い時間が過ぎていった。


          



------------------



かおるさんからのリク。

文章の書き方が、かーなり気に入らなかったので、リクエストでしたが書き直しました。

無駄にスペースをとっていたのですが、今思えばただただ意味もなく。

すごくうざい空白だったので、それの削除と共に文章も変更いたしました。

*2008.11.29(加筆、修正)